経費を精算する際には、通常「領収書」が必要です。
これは、支払いが実際に行われたことを客観的に証明するための重要な書類であり、税務調査などでも「不正な経費ではない」ことの裏付けになります。
とはいえ、日々の業務の中で…
「うっかり領収書をなくしてしまった」
「そもそも領収書が発行されない取引だった」
そんな場面に遭遇したことはありませんか?
実は、領収書がなくても経費として認められるケースはあります。
ただし、いくつかの注意点や代替資料の提示が必要になるため、正しい対応を知っておくことが大切です。
この記事では、
- 領収書の代わりに使える証憑資料の種類
- 紛失時や領収書が発行されない場合の具体的な対応方法
- 経費計上の際に気をつけたいポイント
について、税理士の視点からわかりやすく解説していきます。
「領収書がないから経費にできないかも…」と不安になったときに、ぜひ参考にしてくださいね。
なぜ領収書が必要?領収書の経費精算における役割
「領収書」は経費を精算する際に重要な書類です。
領収書は、商品の購入やサービスの利用にかかる代金の支払いの証拠になり、損金経理を行う際に不正をしていないことを裏付けることができます。
領収書がしっかり保管されていれば、税務調査が入った場合でも堂々と対応できます。
また、領収書には次のようなメリットもあります。
- ✅ 過払い・二重払いの防止
領収書を確認することで、同じ支出を重複して計上してしまうミスを防げます。 - ✅ 経費の不正利用の抑止
従業員に領収書の提出を義務づけることで、業務に関係のない支出を経費として申請することを防ぐ効果も期待できます。
つまり、領収書は「税務対応」だけでなく、「社内の経費管理」にも役立つ、非常に重要なツールなのです。
領収書がない場合に代わりに使える6つの証憑資料
領収書が手元にない場合でも、他の資料で支払いの事実を証明できれば、経費として計上することは可能です。
では、領収書の代わりに使える資料にはどんなものがあるのでしょうか?
支払いが発生した根拠として使える資料は、次の6つが挙げられます。
- レシート
- クレジットカードの利用明細
- 銀行振込の明細書
- 請求書、納品書、注文時のメールやFAX
- ICカードの履歴
- 出金伝票
これらの資料には、支払日・支払先・支払金額などの情報が明記されていることが重要です。
また、状況によっては複数の資料を組み合わせて証明する必要がある場合もあります。
事前に社内ルールや税務上の要件を確認しておくことで、スムーズに対応できますよ。
レシート
現金で支払った場合やキャッシュレス決済を行った際には、レシートを領収書の代替資料として利用することが可能です。
ただし、レシートを証憑として使うには、支払日や支払先・支払金額・支払明細のすべてが記載されているかを必ず確認しましょう。
特に現金で支払うケースが多い場合は、レシートを手元に残しておくと安心です。
レシートは特に紛失が多い資料なので管理には注意してください。
また、クレジットカードで支払った場合、レシートと一緒に「売上伝票(お客様控え)」が発行されることがあります。
この売上伝票も、取引が実際に行われたことを示す重要な証憑資料です。
「いつも捨ててしまっている…」という方も、この機会に保管方法を見直してみてください。
クレジットカードの利用明細
クレジットカードの利用明細は、支払いが発生した事実を証明する資料として活用できます。
ただし、領収書の代替として使用するには、支払日や支払先・支払金額・取引内容が記載されていることが必要です。
明細書の形式によっては、取引内容が省略されている場合もあるため注意が必要です。
そのような場合は、購入時のレシートなどを補足資料として一緒に保管しておくと安心です。
もし、個人のカードを使った場合は、マーカーなどで印をつけたり、業務に関係ない部分であれば黒塗りにしたりすると経理担当者も確認しやすくなります。
クレジットカードで商品やサービスの代金を支払うケースが多い場合は、明細書の管理も行うようにしましょう。
銀行振込の明細書
代金の支払いを銀行振込で行った場合は、振込明細書や通帳の記録が領収書の代替資料として利用可能です。
たとえば、毎月決まった金額を支払っている商品の購入やサービスの利用がある場合、
銀行の振込明細書を継続的な証憑として活用することができます。
振込明細書だけでは取引内容が不明な場合は、
- 請求書
- 契約書
- サービス内容の案内書
などを補足資料として一緒に保管しておくと、より確実な証明になります。
請求書、納品書、注文時のメールやFAX
請求書は、領収書の代替資料として利用可能です。
請求書は、クレジットカードの明細や銀行の振込明細の補完的な資料としても使えます。
請求書の他にも納品書、注文時のメールやFAX、決済画面のキャプチャーも領収書の代わりに使えるので、大事に保管しておくのがおすすめです。
ICカードの履歴
電子マネーや交通系のICカードの履歴も、証憑資料として活用することが可能です。
ただし、ICカードは出力できる期間が限られているケースも多いため、注意が必要です。
特にSuicaやPASMOなどの交通系ICカードでは、過去の履歴が30〜90日程度で消えるケースもあります。
ICカードをよく利用する場合には、定期的に印刷や電子化しておきましょう。
出金伝票
上記で紹介した5つの資料が準備できない場合は、出金伝票を作成しましょう。
出金伝票とは、事業者が現金で支払った際に、取引内容を記録する書類です。
出金伝票は、交通費や慶弔費の精算などで活用されます。
ただし、出金伝票はあくまで「社内での記録」であり、第三者による支払いの証明にはならないため、税務上は証憑として認められないケースもあります。
のため、可能であれば以下のような補足資料を添付しましょう。
- 支払先の案内書:慶弔費の内容や宛先がわかる資料など
- 交通費の経路メモ:出張や移動の目的・経路を記録したメモ
- 社内承認書類:上司の承認印がある精算書など
「出金伝票で済ませる」は最終手段と考える
領収書や明細書が取得できる場合は、そちらを優先して保管するのが基本です。
出金伝票は、どうしても証憑が用意できない場合の「補完的な対応」として活用しましょう。
出金伝票の作成方法について
領収書を紛失してしまった場合など、最終手段として出金伝票の作成が必要になるケースがあります。
いざというときに慌てないよう、出金伝票の基本的な作成方法を理解しておきましょう。
出金伝票とは?
出金伝票とは、現金で支払った際に、領収書がない場合などに支出の事実を記録するための書類です。
税務署の確認が入っても問題がないよう、正確かつ適切に作成することが求められます。
出金伝票の4つの要件
出金伝票を作成する際には次の4つを必ず記載しましょう。
- 支払日
- 支払先の名称
- 支払金額
- 支払いの目的や、商品・サービスの内容
これらの情報が揃っていれば、形式は自由です。
会社によってフォーマットが異なるため、初めて作成する場合は市販のテンプレートを活用するのがおすすめです。
また、先述したように、出金伝票を作成しても必ずしも経費にできるとは限りません。
なので、補足資料として、訪問先の案内状や取引内容を記載したメールなどがあれば、一緒に保管しましょう。
領収書再発行は依頼できる?
どうしても領収書が必要な場合は、取引先に再発行を依頼するという方法もあります。
紛失してしまった場合や、受け取り忘れた場合など、事情を説明すれば対応してもらえるケースもあります。
ただし、領収書の再発行は企業側に義務はありません。また、不正防止の観点から再発行を受け付けていない企業もあります。
領収書の再発行はあくまで「お願いベース」の対応になるため、日頃から領収書の受け取り・保管を徹底しておくことが、最も確実な予防策です。
領収書が発行されない場合の例
日々の業務の中には、そもそも領収書が発行されない支払いもあります。
「領収書がないから経費にできないのでは…」と不安になる方もいるかもしれませんが、
適切な対応をすれば、経費として認められるケースも多いので、心配しすぎなくて大丈夫です。
領収書が発行されないケースとして、主に次の3つがあります。
- 自動販売機
- 公共交通機関(電車・バスなど)
- 慶弔関連の支出(香典・祝儀など)
領収書が発行されない場合でも、適切な対応をとることで経費にできるため、1つずつ確認していきましょう!
これらの支払いでは、領収書が発行されないことが一般的ですが、それぞれに応じた対応を取ることで、経費として処理することが可能です。
自動販売機の利用
来客用や訪問先への差し入れを購入するために、自動販売機を利用するケースがあると思います。
しかし、自動販売機では、領収書もレシートも発行されることはありません。
なので、自動販売機で購入した代金を経費にするためには、出金伝票に記録してください。
交通の履歴やメールのやり取りなど、来客や訪問したことがわかる資料も一緒に管理しておくとよいでしょう。
公共交通機関(電車・バスなど)の利用
バスや電車などの交通費の精算は、社内規定で領収書が不要となっているケースもあります。
領収書なしで交通費を精算する場合は、交通費精算書を用意しましょう。
なお、交通費を経費精算する場合は、次の項目が必要です。
- 日付
- 訪問先
- 利用交通機関(例:JR、地下鉄、バスなど)
- 出発地・到着地
- 片道or往復
- 金額
- 申請者名
- 申請日
バスや電車など公共交通機関を使用するケースが多い場合は、会社でフォーマットを用意すると便利です。
場合によっては、経費精算システムの導入もおすすめです。
慶弔関連費の支出
取引先にご祝儀や香典を支払うケースもありますが、慶弔関連も領収書は発行されません。
慶弔関連費も出金伝票を作成記録し、補足資料をしっかり残すことで、経費として処理することが可能です。
補足資料としては、ご祝儀や香典の袋をコピーしておくことがおすすめです。
また、香典返しの案内状やパーティーなどの招待状・メールやファックスも支払いが発生した証明になりますので、可能な限り保管しておきましょう。
領収書なしで経費にする場合の注意点
ここまで解説したように、領収書がなくても経費にできます。
しかし、注意点もありますので、確認していきましょう。
税務調査での印象が悪くなりやすい
「領収書がなくても、他の資料で代用できるから大丈夫」と思ってしまいがちですが、
領収書は経費の正当性を証明するための基本資料です。
なので領収書がないと、経費の水増しや不正利用を疑われるリスクが高まってしまいます。
とはいえ、税務調査官も、領収書の多少の紛失やそもそも発行されないケースがあることは把握しているため、ある程度までは寛大な措置を取ってもらえます。
しかし、領収書がないケースが多すぎると、税務調査官に対する印象は悪くなりやすいです。
特に、領収書の紛失が多い場合は注意が必要なため、管理方法や体制の見直しを検討しましょう。(例えば、ファイリングルールの整備、デジタル化、社内研修などが有効です)
他の資料で代用するケースは、あくまでも例外的措置だと考え、領収書はしっかり保管しましょう。
領収書の再発行は不正が疑われるリスクがある?
領収書を再発行した場合、経費の二重計上や経費の不正計上など悪用することも可能です。
また、領収書を発行する事業者も再発行の義務がなく、共犯の疑われる可能性もあることから再発行を行わないケースも多いです。
反対に、商品を販売した企業から領収書の再発行を求められた場合には、慎重な対応が必要です。
そのため、基本的に領収書の再発行は困難だと考えましょう。
領収書がないと消費税の仕入税額控除はできない!
ここまでの解説では、法人税や所得税に関する経費処理を中心にお伝えしてきました。
しかし、消費税の仕入税額控除については、事情が異なります。
結論として、消費税は領収書がないと仕入税額控除ができません!
経費としては処理できても「消費税の控除は受けられない」という点には注意が必要です。
消費税法上は領収書が必須
消費税の仕入税額控除は、帳簿と事実を証する区分記載請求書等の両方の保存を要件としています。
この保存要件の有無により、法人税や所得税の経費の要件に領収書は必須ではありませんが、消費税では請求書や領収書が必須となるのです。
インボイス制度により要件はさらに厳格に!3万円未満の領収書にも注意が必要!
インボイス制度が導入される前までは、税込3万円未満の支払いであれば、領収書がなくても消費税の仕入税額控除が認められていました。
しかし、インボイス制度の導入により、少額特例は1万円未満となりました。
少額(税込1万円未満)の課税仕入れについて、インボイスの保存がなくとも一定の事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除ができます。これは取引先がインボイス発行事業者であるかどうかは関係なく、免税事業者であっても同様です(28改正法附則53の2、30改正令附則24の2)。
インボイス制度の影響は、日々の小さな支払いにも及びます。「今まで通りで大丈夫」と思わず、制度変更に合わせた見直しは必ず行いましょう。
一度顧問の税理士と請求書や領収書の保管ルール・保管方法の確認を行うのがおすすめです。
まとめ
いかがだったでしょうか?
領収書は、経費の正当性を証明するための基本資料であり、税務調査や社内管理においても非常に重要な役割を果たします。
とはいえ、日々の業務の中では、紛失してしまったり、そもそも発行されないケースも少なくありません。
そんなときでも、他の証憑資料や補足情報を適切に整えることで、経費として認められる可能性は十分にあります。
ただし、これはあくまで例外的な対応であり、領収書の保管を徹底することが基本であることに変わりはありません。
また、消費税の仕入税額控除に関しては、領収書やインボイスの保存が必須となるため、法人税・所得税とは異なる注意が必要です。
インボイス制度の導入により、少額取引でもルールが変わっているため、「今まで通り」で済ませず、制度変更に合わせた見直しを検討しましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。
今後も経理・税務に役立つ記事を発信していきますので、またお越しいただければ嬉しいです。
それでは、また!
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