
というご質問をいただきました。
車を購入するときには、車両本体の代金に加えて、納車費用、登録にかかる諸費用、自動車税、リサイクル預託金など、さまざまな支出がついてきます。
実際に車を購入された方なら、「え、こんなにかかるの?」と驚いた経験があるかもしれません。
こうした費用、すべてを“取得価額”に入れてよいのか。あるいは、経費として処理すべきなのか……この判断は、思ったよりも難しいものです。
そこで今回は、「車両運搬具の取得価額にはどこまで含めるべきか?」「どう経理・税務処理をすればよいのか?」という疑問について、税理士の視点から丁寧に解説していきたいと思います。
この記事が、車両購入時の処理に悩んでいる方のお役に立てば嬉しいです。
車両運搬具の取得価額の範囲について
車両運搬具の取得価額は、その本体価格のほかに納車費用、引取運賃、荷役費、運賃、運送保険料、購入手数料、関税その他その資産の購入のために要した費用の額およびその資産を事業の用に供するために直接要した費用の額含めたものとなります(法令54①)。
ザックリいうと「その車を事業で使えるようにするためにかかった費用」も含めて取得価額になるイメージです。
実務では、こうした費用の範囲を明確にしておくことが、後々の経理処理や税務対応でも役立ちます。
一覧すると下記のようになります。
取得価額の範囲 | 原則 | 例外 |
---|---|---|
本体価格 | 取得価額 | なし |
付属品(常時とう載する機器) | 取得価額 | なし |
納車費用 | 取得価額 | なし |
登録のために要する費用 | 取得価額 | 支払手数料 |
自動車取得税(環境性能割) | 取得価額 | 租税公課 |
自動車重量税 | 租税公課 | なし |
自動車税 | 租税公課 | なし |
中古車購入にかかる未経過自動車税相当額 | 取得価額 | なし |
保険料 | 保険料 | なし |
中古車購入にかかる未経過自賠責保険料相当額 | 取得価額 | なし |
リサイクル料金 (資金管理料金以外) | 預託金 | なし |
リサイクル料金 (資金管理料金) | 支払手数料 | なし |
具体的にみていきましょう。
車両運搬具の付属品
車を購入するときに、一緒に取り付ける装備品って結構ありますよね。例えば、カーナビやカーステレオ、無線通信機、カーエアコン、工具、スペアタイヤなど…。これらの機器は、車に「常時搭載するもの」であり、車の一部として機能しています。
このため、これらの付属品は車両運搬具本体と一括して「取得価額」に含めることになります。税務上も、車両と一体として扱われるため、同じ耐用年数が適用されるとされています(耐年通2-5-1)。
もし、付属品を後から買い換えた場合も注意が必要です。新しい付属品の購入は「資本的支出」として扱われます。そのため、付属品単独で資産計上するのではなく、車両本体の耐用年数を引き継いで処理することになります(耐年通1-1-2)。
登録のために要する費用
登録のために要する費用(検査登録費用、車庫証明費用、申請代行費用)などについては、車両運搬具の取得価額に算入しないことができることとされ、その取得価額に算入するかどうかは法人が選択できます(法基通7-3-3の2(1)ニ)。
ポイントは、「法人が自由に選択できる」というところです。つまり、これらの登録関連費用を車両運搬具の取得価額に含めるかどうかは、会社の判断に委ねられているのです。
では、なぜこうした選択が認められているのでしょうか?
それは、登録関連の費用が第三者に対してその車を“自社の所有物”として主張するための手続きにかかる費用であり、必ずしも車両運搬具の取得価額に算入すべき費用と言い切れない面があるからです。
車両運搬具の税金
車の取得時にかかる税金について、その税金の種類によって、処理が若干異なります。
環境性能割(旧 自動車取得税)
かつて自動車取得時には「自動車取得税」が課されていましたが、現在は「環境性能割」がその役割を担っています。
この環境性能割については、取得価額に含めなくてもよいこととされており、法人が選択できる仕組みになっています(法基通7-3-3の2(1)イ)。
ちなみに『法人税基本通達逐条解説(十一訂版)』では、その理由を以下のように解説しています。
「これらの租税公課等は一種の事後費用であるうえ、その性格も流通税的なものないしは第三者対抗要件を具備するための費用であって、必ずしも固定資産の取得原価そのものとはいいきれない面がある。」
つまり、「その車を誰のものか示すための費用」である側面があるため、必ずしも取得価額に含める必要はない、という考え方ですね。
自動車重量税
これは新規登録時と2年ごとの車検時にまとめて納付する税金ですが、取得時に発生する直接的な費用ではないため、取得価額には含めません。
自動車税(地方税)
4月1日時点で自動車を所有している人に課税されるもので、毎年かかる地方税です。こちらも、取得に伴う支出ではないため、基本的には取得価額に含めません。
ただし、中古車を購入する場合は注意が必要です。
例えば、売主がすでに支払っていた自動車税のうち、未経過期間分に対応する金額を買主が負担するケースでは、その金額は都道府県に納める自動車税ではなく、実質的には中古車の代金の一部として扱われます。
このため、こうした費用は取得価額に算入するのが適切とされています。
保険料
車を購入する際にかかる保険料にも、取得価額に含めるもの/含めないものがあります。ここでは「自賠責保険」と「任意保険」に分けて考えてみましょう。
自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)
これはすべての車両保有者に加入が義務付けられている保険であり、車両を利用するための最低限の保証です。
基本的には、取得価額には含めず「保険料」として経費処理します。
もし自賠責保険料を複数年分まとめて支払った場合には、「長期前払費用」に該当するため、期間按分が必要になります。
ただし、実務上は、自賠責保険が少額であることや、租税公課に近い性質を持つことから、支払時に全額を損金処理する方法が容認されているケースもあります。
(どちらの処理を行うに際しても、継続して同じ会計方針を適用することが前提となりますので、社内で明確なルールを定めておくと安心です。)
また、中古車を購入する場合には注意が必要です。
前の所有者が支払った自賠責保険料の未経過期間に対応する金額を買主が負担する場合、それは単なる保険料ではなく、継続して乗用できる期間の価値に対する対価であるため、中古車の代金の一部として扱われ、取得価額に含めて処理することになります。
任意保険
任意保険はその名の通り加入が選択できる保険であり、自賠責保険とは異なります。
任意保険の保険料は取得価額に含めず、通常は経費として処理されます。
もし複数年分をまとめて支払った場合には、自賠責と同様に期間按分が必要となり、翌期以降にかかる分については「前払費用」として処理しなければなりません。
車両運搬具のリサイクル料金
平成17年1月1日から施行された「自動車リサイクル法(使用済自動車の再資源化等に関する法律)」により、すべての自動車所有者に対して、車両購入時や車検時にリサイクル料金の負担が義務化されました。
このリサイクル料金は、預託金のような性格のものであり、将来、廃車する際に損金処理できるものです。
自動車リサイクル料金のうち資金管理料金を除く部分は、自動車を廃車するまで資金管理法人に対して預託する制度になっていますので、会計上は「預託金」「長期前払費用」などの勘定科目で資産計上をします。
そして、資金管理料金は一連の事務手続きに要する費用であるため、支払手数料として経費処理できます。
リサイクル料金項目 | 勘定科目 |
---|---|
資金管理料金以外の部分 (シュレッダーダスト料金、エアバック類料金、フロン類料金、情報管理料金) |
預託金、長期前払費用として資産計上 |
資金管理料金 | 支払手数料として経費処理 |
ちなみに、もし中古車として車両を転売した場合には、次の所有者にリサイクル料金を引き継ぐかたちとなり、そのぶんの預託金が返還されることになります。
このときは、帳簿上で預託金を消し込み処理する必要があります。
まとめ
いかがだったでしょうか?
車両運搬具の取得にまつわる費用は、その種類や性質によって処理方法が大きく変わります。
あらためて、一覧にすると、下記のとおりです。
原則 | 例外 | |
---|---|---|
本体価格 | 取得価額 | なし |
付属品(常時とう載する機器) | 取得価額 | なし |
納車費用 | 取得価額 | なし |
登録のために要する費用 | 取得価額 | 支払手数料 |
自動車取得税(環境性能割) | 取得価額 | 租税公課 |
自動車重量税 | 租税公課 | なし |
自動車税 | 租税公課 | なし |
中古車購入にかかる未経過自動車税相当額 | 取得価額 | なし |
保険料 | 保険料 | なし |
中古車購入にかかる未経過自賠責保険料相当額 | 取得価額 | なし |
リサイクル料金 (資金管理料金以外) | 預託金 | なし |
リサイクル料金 (資金管理料金) | 支払手数料 | なし |
実務の現場で迷いやすいポイントですが、今回の記事で取り上げた各費用の考え方をひとつひとつ整理すれば、難解に感じていた処理も、自信をもって対応できるようになるはずです。
日々の業務で車両購入に関わる処理に直面したときには、ぜひこの内容を確認してみてください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
今後も経理・税務に役立つ記事を発信していきますので、またお越しいただければ嬉しいです。
それでは、また!
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