企業では、災害支援の義援金や地域への協賛金など、社会貢献を目的にお金を出す場面は少なくありません。
けれども、そのお金がすべて「寄付金」として処理されるわけではないのです。
会計上、「寄付金」以外の勘定科目が使われる場合もありますし、また、税務上の「寄付金」には細かいルールや区分があり、経費(損金)として認められるかどうかには条件があります。
この記事では、初めて寄付金の処理を担当する方にもわかりやすく、
- 「寄付金」とそれに似た経費の違い
- 税務上の4つの寄付金の種類
- 税務上の損金に算入できるかどうかの判断ポイント
- 企業版ふるさと納税の特別ルール
などを丁寧に解説していきます。
「実態に即して、正しく処理するにはどうすればいい?」そんな疑問を一緒に解きほぐしていきましょう。
寄付金とは?
寄付金とは、企業が特定の団体や組織に対し、無償で贈与した金銭や資産のことです。
たとえば、災害の被災地に送る義援金(ぎえんきん)や、地域イベントの支援として出すお金など寄付金にあたります。
寄付金は「拠出金」や「見舞金」、「義援金」などと呼ばれることもありますが、実態が伴もなっていれば、税務上は「寄付金」として扱います。
寄付金と他の経費との違い
「寄付金」のように無償で提供することのある費用としては、接待交際費や広告宣伝費、福利厚生費などがあります。
- 接待交際費:お客様との飲み会やお土産代など
- 広告宣伝費:商品や会社を知ってもらうために配る品物やスポンサーとしての協賛金
- 福利厚生費:社員の健康や働きやすくするための出費
これらの費用と「寄付金」との大きな違いは、見返り(リターン)を期待しているかどうかです。
たとえば、同じ花火大会への協賛でも、
- 企業名を読み上げてもらえる場合 → 広告宣伝費
- 企業名がまったく出ない場合 → 寄付金
このように、使った目的が同じに見えても、実際の内容によって処理の仕方が変わるので、注意が必要です。
注意:金銭や資産を贈与してなくても、税務上「寄付金」となる場合
企業は「利益を出すこと」を目的に活動しています。
そのため、”本来もらえるはずだったものを受け取らない場合”も「寄付した」とみなされることがあります。
例えば・・・
- 取引先に無利子(=金利ゼロ)で金銭を貸付た場合
- 無償で貸し付けた不動産の賃貸料
- 時価よりも低い価格で資産を販売した場合の時価と譲渡対価との差額分
この場合も、実質的には相手に“寄付した”と考えられて、「一般の寄付金」として扱われます。
このとき、損金算入限度額を超えた部分は課税されるケースもあります。
法人税法上の「寄付金」は4種類に分けられる
法人税法上では、寄付先は主に以下の4種類に区分されています。
- 国や地方公共団体への寄付金
- 特定公益増進法人に対する寄付金
- 指定寄付金
- 一般の寄付金
それぞれに税務上の扱いも少しずつ違うので、しっかり押さえておきましょう。
国や地方公共団体への寄付金
各都道府県や市町村、国に対して直接的に譲渡した金銭や資産が該当します。
災害時の寄付金などが代表的な例です。
特定公益増進法人に対する寄付金
教育や価額、文化、社会福祉などへの貢献といった”公益を増進させると認められた法人”への寄付金のことを指します。
例:学校法人や社会福祉法人への寄付 など
指定寄付金
財務大臣が指定した寄付金のことです。
具体的には、公益の推進を行っている法人や団体に対する寄付の中でも広く一般に募金が募られているものが該当します。
たとえば、教育や科学、福祉、文化の向上を目的としたもので、緊急性の高い募金活動などが該当します。
例:学校法人の教育研究、オリンピック開催、国宝修復など
一般の寄付金
上記以外の寄付金すべてを指します。具体的には、無利子で貸し付けた金銭などが該当します。
法人にも寄付金控除は適用される?
個人が寄付金を支払った場合は寄付金控除が適用されますが、法人は税制上の優遇措置として、寄付金を損金算入することが認められています。
法人の場合、寄付金は会計処理上では経費として処理されますが、寄付金を損金算入するには一定の要件を満たす必要があります。
つまり、帳簿上は「寄付金」として経費として処理しても、税務上は損金として認められない場合があるということです。
寄付金の損金算入のしかた
これまでお伝えしたように、法人が寄付金を支払った場合は、一定の要件を満たすことで損金算入をすることでき、課税所得額を減らすことが認められています。
それでは、寄付金を損金算入するための要件をみていきましょう。
損金算入には申告書類が必要
寄付金を損金に含めるには、確定申告のときに「寄付金の損金算入に関する明細書」を一緒に提出する必要があります。
また、寄付の内容によっては、証明書(領収書など)が必要になる場合もあるため、寄付をした先からあらかじめ発行してもらっておきましょう。
必ずしも全額が損金になるわけではない!
ここで大事なのが、「寄付した金額すべて」が必ずしも損金になるわけではないという点です。
これは、寄付金が無制限に損金算入できてしまうと、過剰な税金対策として利用される恐れがあるため、寄付金の種類や内容により損金算入できる限度額が設けられているのです。
先ほどの4種類の寄付金それぞれに、限度額のルールがありますので、それぞれみていきましょう。
国や地方公共団体への寄付金の場合
国や地方公共団体への寄付金は全額損金算入が認められています。
国や地方自治体に直接寄付したものはもちろん、公立高校への寄付金なども該当します。
特定公益増進法人への寄付金の場合
特定公益増進法人への寄付金は、以下のいずれか少ない方の損金算入が可能です。
- 特定公益増進法人への寄付金の合計額
- (期末の資本金等の額 ×当期の月数/12×3.75/1,000+ 所得の金額 ×6.25/100)×1/2
特定公益増進法人への寄付金のうち損金算入しきれなかった金額については、一般の寄附金に係る損金算入限度額の範囲内で損金の額に算入されます。
また認定NPO法人に対する寄付は、有効期限内に支出した額だけが損金算入の対象です。さらに特定公益信託の場合の損金算入は、認定から5年以内が期限となっています。寄付する際には期限の確認をしておきましょう。
指定寄付金の場合
指定寄付金の場合は、国や地方自治体への寄付と同様に全額損金算入が認められています。
具体的には、国宝の修復やオリンピックの開催費用、国立大学法人の教育研究費用、赤い羽根共同募金などが挙げられます。
一般の寄付金の場合
一般の寄付金(これまでの3つ以外)の場合、損金算入の限度額は以下の式で算出します。
(資本金等の額 ×当期の月数/12×2.5/1,000+ 所得の金額 ×2.5/100)×1/4 |
一般の寄付金は、国や地方自治体、特定公益増進法人、指定寄付金以外の寄付金と考えて問題ありませんが、具体例を挙げるならば宗教法人や政治団体などが該当します。
(参考:国税庁HP『No.5281 寄附金の範囲と損金不算入額の計算』©国税庁)
企業版ふるさと納税は別途手続きが必要
市区町村が独自に行う地域創生に対する寄付のことを「企業版ふるさと納税」と呼びます。
この「企業版ふるさと納税」は、正式には「地方創生応援税制」と呼び、他の寄付金とは異なり損金算入の際には別途手続きが必要となります。
具体的な手続きは以下の通りです。
- 「まち・ひと・しごと創生寄附活用事業」の寄付が可能か市区町村に確認する
- 寄付の方法について企業と担当部署とで話し合い、決定する
- 寄付申請書を提出する
- 市区町村から送られてくる納付所を使用して寄付金を支払う
- 市区町村から送られてくる受領書を添付して確定申告をする
企業版ふるさと納税の下限額は10万円です。金銭のみならず、地域創成事業に企業の人材を派遣し、人件費を寄付額として処理することも可能です。
ちなみに、企業版ふるさと納税では、個人で行うふるさと納税のように返礼品はありません。
法人税の寄付金処理に関する注意点
法人税における寄付金の損金算入は、会計年度ごとに処理しなければなりません。
その年度に損金算入できるのは、その年に支払いがあった寄付金のみです。
例えば、既に寄付の申請を済ませていても、支払いが次年度になる場合は、その年の損金ではなく次年度分の損金として計上されるため注意しましょう。
請求書を発行した時点で計上する場合や金銭以外で寄付した場合など、損金算入のタイミングがいつになるのか忘れずに確認をしましょう。
おわりに
いかがだったでしょうか?
今回の記事をまとめると、
- 寄付金とは:企業が無償で提供した金銭や資産で、見返りがないのが特徴。
- 寄付金と他の経費の違い:接待交際費や広告宣伝費などは見返りを期待する点で異なる。
- 実質が大事:名称や形式ではなく、「実態」で寄付金と判断される。
- 法人税上の4区分:寄付金は「国・自治体」「特定公益増進法人」「指定寄付金」「一般の寄付金」に分かれる。
- 損金算入の条件:すべての寄付が損金になるわけではなく、種類や金額に応じて限度額がある。
- 企業版ふるさと納税:地方創生を支援する特例制度で、損金算入には特別な手続きが必要。
- タイミングに注意:申請と支払いの時期が異なる場合は、損金算入も翌年度扱いとなることがある。
といった感じです。
寄付金は企業にとって、社会とのつながりを育む大切な活動です。
その善意とともに、正しく税務処理をすれば節税のメリットもあります。
ただし、寄付金の処理は、実態に応じた判断を求められ、さらには損金算入のルールまで確認が必要な、難しい分野でもあります。
そんな寄付金の処理で迷いが生じたときに、この記事がお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
今後も経理・税務に役立つ記事を発信していきますので、またお越しいただければ嬉しいです。
それでは、また!
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